独書日記29〜最近読んだ本②〜
おはようございます、うどくです。
もう9月になり、夏休みも残り半分となりました。
最近メガネを新しくしたのですが、快適なものですね。
メガネをつけたままよく寝てしまうのでフレームがよく歪むのですが、そのために前のメガネは下を向くとずり落ちてしまうようなものだったので中々不便だったのです。
フレームが変わったのはメガネをつけ始めてから3回目なのですが、今回は思ったより印象が変わらなくて少し残念です。
※今回は長くなってしまったので、興味ある部分だけ目を通してみてください。
それでは本題に移りましょう!
目次
- 『コンビニ人間』村田沙耶香
- 『春、死なん』紗倉まな
- 『人間とは何か』マーク・トウェイン
- 『自由意志』トーマス・ピンク
- 『最後の秘境 東京藝大』二宮敦人
- 『サル化する世界』内田樹
- 『FACT FULLESS』ハンス・ロスリング
『コンビニ人間』村田沙耶香
本作は2016年の芥川賞受賞作です。
『火花』とのダブル受賞で話題になりましたね。
前からずっと気になっていた作品でしたが、満を辞してここで読もうと思い立ちました。
概要
古川恵子は36歳独身の女性であり、18年勤めているコンビニの店員として生計を立てていた。彼女はコンビニで働き、コンビニ食で腹をみたし、コンビニの店員としての自分をアイデンティティを求めるなどコンビニが彼女の生活の全てだった。そんなある日、彼女の勤めるコンビニに新人バイトとして現れた白羽は彼女の生活に疑問を投げかけて、、
この作品は特に大きな展開がある訳もなく、特段暗かったりハッピーであったりする話でもなく、何か人生の指針になるものがある訳でもありません。
ただちょっと普通じゃない人を通して生きづらさをありありと描き出し、読者に対して「普通とは?」というような疑問を投げかける作品です。
作中には、2人の世間の普通からずれた登場人物が登場します。
主人公の古川と白羽です。
2人とも自分が普通でないことは自覚していますが、それをどう受け止めるかが正反対になっています。
古川は自分を捨て徹底的に周りに合わせて普通であろうとする一方、白羽は世界の方が間違っていると考え、周りと違う特別な自分になって周りを見返そうとしています。
彼らに対し、最初は「痛い人だ」という感想を抱きましたが、段々他人事ではなく自分もこういう面があるんじゃないのか、そんな気持ちになってきました。
普通と異質の間で上手にバランスをとることができていると、上手に生きているということになるのでしょう。
普通がテーマということで少しずれますが、考えたことをひとつ
多様性のある社会とはどのようなものだと思いますか?
いま目指されている多様性のある社会とは一つの状況、結果であると思うのですが、多様性は不断にそれを追求している過程にこそ成り立つと思うのです。
だから、普遍的な何かを求めようとすることはエゴになってしまうかもしれません。
だからと言って、自分の思うものが正しいとしてしまったらそれもそれで多様性からは程遠い、、
じゃあ、どうするか、
私は多様性のある社会を作るには、 常に人と関わりあっていく中で暫定的な正解を探していくことが大事なのだと思います。
その暫定的な正解が、作中の「普通の押し付け」のようなものにならないように、相手を守るものではなく相手を傷つけないものにしていくのが大事なのでしょう。
(上手くまとまりませんでした、、)
好みが分かれる作品ではあると思いますが、一度手に取る価値はある作品だと思います。おすすめです。
『春、死なん』紗倉まな
概要
『春、死なん』は、妻を亡くした老人の富雄は原因不明の目の異常と時々の性衝動に悩まされていた。そんな彼はある日、大学時代に一度関係を持った女性、文江と再開し、、、表題作に加え、母の性をテーマにした『ははばなれ』も収録されている。
『春、死なん』がテーマとする老人の性は「気持ち悪い」との思いのもと普段は考えるのを避けるような問題ですが、それがありありと描かれており考えさせられるものがありました。
社会の中でも、家族の中でも個人は一人ひとり自分の役職に適った人間として生きることが求められますが、個人はNPCではない、一人の個性を持った人間なんです。
これは家族の中では特に考えたくない問題かもしれませんし、普段は考えない方がうまくいくものなのでしょう。
しかし家族の一員である前に誰もが人間なんだということに対して理解がないことは辛いし孤独を感じるものなんだと思いました。
これを描いた場面が次になります。
富雄の所有していたエロ本が孫の静香に見つかったシーン
「きっも」
・・・「ありえないでしょ、これ。じじいのくせに」
・・・「老人は黙ってゲートボールでもしていれば満足なのか」
・・・カッと頭にまで血が滾り、しかし次の瞬間には、体から力が絞られるように抜けていき、姿勢が曲がっていく。何もかもが白日にさらされ、消えてしまいたかった。
「俺はそういう人間なんだ」
情けなくなるほどのか弱い声が出て、富雄はうつむいた。
おじいちゃんである前に一人の男であることに理解がないことは富雄の矜持を傷つけますが、すぐに決して理解されないものだと悟り脱力感に苛まれているのが、見事に描かれています。
考えたことを少し、
私たちは人と暮らす中で誰もがそれぞれの一部だけをあてにして、関わり合っています。
それは共同生活では当たり前で不可欠のことですが、どこか寂しい気もしませんか?
だからと言って、「私を理解してほしい」と言って自身の理解者を求めるというのは傲慢以外のなにものでもないでしょう。
それは自分にとって都合のいい役割を他者に押し付けてしまっていて結局は自分本意なものなのです。
芦田愛菜さんの「信じる」ということに言及していたインタビューが話題になっていましたが、こういうことなのでしょう。(多少卑屈な捉え方だと思いますが、、)
つまり、聞こえのいい言葉で他人を消費しているだけなのです。
他人と対称な関係を築くには、孤独と上手く付き合っていかなければなりません。
実家に帰り改めて人と生活する中で常々こんなことを感じる最近です。
話はそれましたが、本作は私が今年読んだ本の中で最も惹かれた作品でした。
著者がAV女優ということで嫌厭せず、ぜひ手にとって欲しい一冊です。
『人間とは何か』マーク・トウェイン
概要
老人が青年に向かって人間の自由意志を否定し、人間とは全く環境に支配されながら自己中心の欲望で動く機械に過ぎないことを論証していく。
レポート書くにあたって目を通していたので今回読み直しました。
対話形式で話が進んでいくので、読みやすくなっていました。
本書で言わんとしていることは2つで
・人間は他の動物と等しく機械である(機械とは外的要因によってのみ動くという意味
・どんな行動もその衝動は利己的な欲望から生じるものである
というものだったと思います。
この結論は一見悲観的でショッキングなものに捉えられてしまいかねませんが、私は一種の救いにもなり得るものであると感じました。
消極的な意味においては、自己肯定感が低い人もその責任を自分以外に求められるようになります。これは一時的な処方箋にしかなり得ませんが、どうしようもない時の最後の逃げ道としては有効なものではないでしょうか。
また積極的な意味として、置かれた環境で精一杯生きようと思うことを助けるものだと思います。「親がそう言ったから〜」や「〜のせいで・・・」と今置かれた環境を悲観したくなるかもしれませんが、それが当たり前のことなんだとこの本は教えてくれます。
あとは程度の問題で自分が置かれた状況でどのように生きるか、そしてどのような環境に身をこれから投じるか、こんな風に考えることができるようになったらもっと楽しく生きることができると思います。
『自由意志』トーマス・ピンク
概要
自由意志に関する議論は古代ギリシアにまで遡る。これらの議論を振り返りながらその問題を確認しつつ、最後に筆者独自のこの問題に関する解決策を提示する。
この本もレポートを書くにあたって目を通していて再読した本です。
自由意志は、意志が因果的に決まる説と自由に決まる説に大きく分けられます。
本書ではこれを組み合わせた4つの考えが紹介されました。
・自由意志と因果的決定論は両立する
・自由意志はなく、因果決定論的に行為は行われる
・自由意志はあり、因果的決定論はない
・自由意志はなく、因果的決定論はない
1つ目の考え方は奇妙に思われるかもしれません。
自由な意志があると言っているのに、その意志は因果的に決定されたものだと主張しているから矛盾しているように思われます。
この考えを唱えた有名な哲学者にホッブズがいます。
彼がそう考えることができたのは、彼の考える自由が私たちの考える自由とは違っていたからなのです。
ホッブズは因果的に決定された意志による行為が阻害されなかったときが自由であるのだと考えていました。
これも奇妙なものかもしれないが、読み直して結構大事な考えなのではないかと思いました。
因果的な決定というのをもう少し広くというかわかりやすく捉えると、周りの環境による決定とも考えることができると思います。
つまり、いま自分が置かれた状況が周りの環境に流されるがままにもたらされたものだとしてもそれを自由なものだとホッブズの考え方では捉えるのです。
自由を認めることは責任を負うことを認めることであり、自分の置かれた環境が本意でなかったとしてもそれに責任を持つように考えるホッブズの論は大人になっていく上で大事なのかもしれません。
自由意志が何かを知るかというにはためになったが、著者の議論は個人的にはそんなに面白くはなかった。
『最後の秘境 東京藝大』二宮敦人
概要
著者が6年に渡って行ったインタビュー取材をもとに普通の大学とは一味違う東京藝大の姿が明かされる一冊。天才と呼ばれる藝大生の日常に迫り見えてくるのは一体、、、
芸術については疎く、そこら辺を扱う小説が読めないということでその足がかりになればということで手にとった本。
奇想天外なエピソードが多く楽しく読めました。
・入試で紙と鉛筆と消しゴムを渡され自分を表現しろという課題に対して、鉛筆の芯を顔につけそれを紙に押しつけ自画像として提出する
・体が作られる前に楽器を扱うことで骨格から変えられないと、それだけでディスアドバンテージになってしまう
etc...
ただ面白いだけでなく芸術に対しての真剣な姿勢も見えるので、同じ大学生の自分も頑張ろうという気持ちになりました。(小並感)
「私たちは音楽の末端でしかない。けれどその末端は一番美しくなければならない」という言葉が途中でありましたが、この考えは大切だなと思いました。
世界を変えようとした時、まず自分が変わらなければならないというのはよく言われます。
そのとき世界の一部分、末端である自分こそが変わってなければならないというのがなんだかしっくりきた一節でした。
芸術関係の小説を読む足掛かりになる本かはわかりませんが、とても楽しく読める一冊でした。
また、在学中のKing Gnuの井口さんが登場してきてびっくりしました。
そういうのが気になる人もぜひ手に取ってみてください。
『サル化する世界』内田樹
概要
今だけ良ければそれでいいの考えが蔓延る現代に警鐘を鳴らすとともに、そんな社会の中での生き方を問う。
社会における知性の位置づけから、敗戦をどう受け止めるか、AIと教育、人口減少、ハゲタカ問題など様々なテーマを扱うエッセイ集。
内田樹といえば、センター試験の評論の問題に登場していたので読んだことのある大学生がほとんどなのではないでしょうか。
こう言った文章を解くためではなく純粋に読むということをしてみたいと手にとった次第であります。
面白かった部分をいくつか紹介したいと思います。
時間意識について
時間意識は後天的で人間独自のものであると著者は考える。その根拠として、古代中国の古事成語を挙げる。「朝三暮四」で言うと、サルに対して飼い主が餌を朝4つ夕3つやるようにして餌を節約したのも飼い主が狡猾だったからではなく、飼い主自身もサルト同じように考えたからだと考えるそうだ。
今を生きる自分にしかリアリティを感じられないからこそ、後に来る不利益を考えられないのだ。これが題名にもなっている現代の目先の利益ばかりを求める現代の風潮を風刺する「サル化する社会」につながっているのだ。
私もよくめんどくさいことを後回しにするが、それは今の自分と未来の自分に同一性を感じることができない時間意識の弱さから来るのかもしれない。
その時の私はサルになってしまっているのだろう。自戒として忘れないでおきたい。
オーラルコミニケーションがより重視されるようになった件
著者はこの風潮の一因として日本がアメリカの属国であることを指摘する。複雑な文章を読む力を軽視して、オーラルだけが重視されることを植民地の言語教育の基本であると言う。オーラルコミニケーションにおいてはネイティブが圧倒的なアドバンテージを有する。また、オーラルではその出自が一瞬で判定され、格付けされるシステムの構築に他ならないとも言う。
この問題は英語教育どうこうではなく、世界のあり方そのものに関するものであるので一朝一夕で変わるものではないが、これが不公平な状況であることは認識し訴えていくことは大切かもしれない。このような言語的な覇権を握る国に対して私たちができるささやかな抵抗は、読む力を行使してネイティブに負けないほどのその国の教養を身につけていくことなのであろう。
いろんなテーマを扱っていて面白かったし、読みやすかったです。
ただ結構偏っている部分もあったと思うので、こういった文章はいろんな人のを読んでいきたいと思います。
『FACT FULLESS』ハンス・ロスリング
概要
様々な思い込みをデータや事実を用いて打開していく。世界を正しくための習慣”ファクトフルネス” を解説する。
この本ではクイズ形式が取られていて、私たちの常識がクイズによって打破されていくのは気持ちよかったです。
特に印象的だったクイズをいくつか紹介したいと思います。
Q. 世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったでしょう?
A:約2倍になった
B:あまり変わっていない
C:半分になった
Q.世界の平均寿命はおよそ何歳でしょう?
A:50歳
B:60歳
C:70歳
Q. 世界中の30歳男性は、平均10年間の学校教育を受けています。同じ年の女性は何年間学校教育を受けているでしょう?
A:9年
B:6年
C:3年
答えはC、C、Aです。
どのくらいあたりましたか?
私は読んだときはこの3問は全て間違ってしまいました。
この本で何度も言われていたことは、世界は思っているよりも良くなっていると言うことでした。
それを妨げる10の思い込みを教えてくれるのがこの本です。
ただ、多少データの使い方が恣意的と感じる部分があったり、マクロな視点での考えのためその残りを改善するのがいかに難しいかを考えないと言う楽観的な考えになりかねなかったりする部分は気になった。
ただそこを含めての”ファクトフルネス”なのかもしれません、、
今回はとても長くなってしまいました。
(文量も書くのに書き上げるのにかかった時間も)
もっと哲学系の本を読みたいとも思っているのですが、難しいし何より小説が面白すぎて手が伸びません。
今回読んだ2冊はこれまで読んだ中でもトップレベルに好みだった上に、『春、死なん』に関しては期せずして本屋で出会い買った本だったので特に気に入っています。
こういう偶然気になって買った本が自分にぶっ刺さる時があるからこそ、本屋を歩くというのはやめられない!
大阪のでっかい本屋にもまた行きたいものです。
最後まで読んでいただきありがとうございました😊次回も楽しみにしていてもらえると嬉しいです。